伝世の堅手茶碗の優品です。旧蔵者によって「玉鏡」と銘を与えられておりますが、その名がふさわしい優美な佇まいをしております。
堅手茶碗で夙に有名な根津美術館所蔵の「長崎」とサイズ感が近く、大きな高台でどっしりとした風情のある「長崎」に対し、こちらは全体に端正で女性的な美を感じさせます。
「長崎」同様かちっとした磁胎ですが、まるで土物のように作行きが軽妙で、端反りの口縁から、なだらかに竹節高台へ落ちてゆく伸びやかなラインは賞玩に値します。
磁器質の堅手は育たないと勝手に思い込んでいましたが、しっとりした肌はまさしく伝世の賜物、わずかに釉色は青みを帯び、深みがあり、玉子手のように柔和で淡い。縮緬皺になった高台の土味も、数百年間ものあいだ人の手によって馴染んでいる。伝世の茶碗ならではの、得も言われぬ風格を有しています。
見込みには鏡が落ち、七つの目痕が無造作に点在します。さらに内側にかすかな鏡の円線があり、珍しい二重の鏡となっているのも面白い。この見込みの鏡は、熊川茶碗や玉子手の約束と同様で、コテの使用による形跡です。この茶碗が左記と同様、慶尚南道方面の産であることを物語っているのでしょう。
旧蔵者の記した紙に「玉子手を見るがごとく乳白色、高台内の縮緬皺、見込みの小皿、良き高麗茶碗である」と賞されており、愛着のほどが偲ばれます。塗箱の蓋に「高麗茶碗 玉鏡」と金銀漆で書かれ、蓋裏に喜撰法師の歌「わが庵は 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり」の色紙があります。たとえ世の人がとやかく言おうとも、時折この茶碗で一服し、安息の時を確保しておれば、それでよいではないか・・・と静かに語りかけてくるようです。
コンディションは、時代ニュウが大小5本ほど。ソゲの古い金直しが一か所。伝世品なので気になるようなダメージではありません。なお、この茶碗の次第の詳細につきましてはブログページにて追記いたしますので、そちらもあわせてご参照くだされば幸いです。
(SOLD)このお品物は売約済となりました。まことにありがとうございました。