京都府木津川市の加茂町にある当尾・森八幡宮の摩崖仏拓本です。森八幡宮は聖武天皇が恭仁宮を造営した際に宇佐八幡宮が勧請されたという蒼古とした歴史ある神社です。本殿のそばに岩に刻まれた不動明王と毘沙門天が並んでございます。右手に毘沙門天、左手に不動明王。こちらは右手の毘沙門天の摩崖仏拓本です。
唐風の甲冑をまとい、右手に矛と左手に宝塔を持ち、前方を睥睨した毘沙門天の御姿は、鎌倉期ならではの写実的な力強さに溢れており、尊像の右に銘文が刻まれています。すなわち「武内之本地」とあり、これにより武内宿禰の本地仏としてこの毘沙門天が建立されたことが表されております。京都府指定文化財になっており文化財保護の観点から今は採拓を許されておらず、数も限られているため非常に珍しい拓本であります。加えて幕末明治ごろの拓と思われ非常に古格があることと、克明に採拓され鑑賞上好ましいことと、下部に「八幡宮御神璽」の印が押されていることが尚も面白い(これは神社のお墨付きのようなものです、今日では考えられぬことです)。仏教美術の拓本として貴重な遺例と思われます。同時出品の不動明王と一対の幅として愛好家の方にお渡しできればと思っています。
売約済となりました。まことにありがとうございました。