(SOLD)伊賀四方水指


モダンなキューブ状の水指です。いかにも伊賀らしい長石が噴き出した焼締の土肌に、あざやかなグリーンの釉が流れ掛かり、コゲとのコントラストも雄渾な自然を思わせる景色を成しています。江戸初期の寛永年間に130点ほど焼成された、いわゆる藤堂伊賀の作品です。藤堂伊賀は主に水指を焼成しましたが、わけても、このようなモダン・アートのごとき水指は稀有で、ほかに類を見ないのではないかとさえ思われます。なお水指の内部に松葉と呼ばれる窯印が記されています。美濃伊賀作品などにも見られ、数寄者に喜ばれる要素でしょう。

江戸初期ごろのきわめて古い桐箱に「伊賀焼四角水指 次郎」と記されており、共箱の可能性が十分考えられます。戦前の外箱には「古伊賀四方 松平家伝来 銘 次郎 水指」と記されます。添状らしきものがあるのですが、当方には読むことができません。この添状に松平家伝来と記す所以や、次郎という銘の由来があるのかもしれません(すぐ思いつくのは古備前花入の名品「太郎庵」ですが、同じ焼締というほかは窯も姿も違うため、やや首肯しがたいです。ただ太郎庵は細水指として用いられた可能性があり、そこへの憧れ、また成りが対照的であるがゆえに次郎と付けたと考えられるかもしれません)。

口縁にソゲや古い金直しが散見されますが、江戸初期から伝世してきた水指ですので、気になるようなダメージではありません。その形状からも柄杓を用いやすく、水指としてはもちろんのことですが、多人数の酒席における酒壺としても、おすすめしたいところです。観瀑を思わせるような涼しげな釉景色であり、そこから冷えた吟醸酒などを振る舞うのも、大いに喜ばれる面白さを有する佳品ではないでしょうか。

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