吉田屋 筆筒

吉田屋の大珍品、手びねり成形による筆筒です。図録で散見されるような筆筒はもっと細く小ぶりで、端正な轆轤成形ですが、このような手びねりの大きな筆筒はきわめて希少なものと申せます。少なくとも当店はこれが初見です。青手の大らかな花鳥文、茶生地を用いた胎土など、初期ならではの特徴を備えており、後期の完成された作風とは一線を画すものだからこそ、イレギュラーで未完成ゆえの、高度な芸術作品が生まれたのでしょう。

きらきらとした美しい釉は、他の再興九谷諸窯とはまったく違っており、さすがに吉田屋という他なく、まるで青手古九谷のような趣さえ感じられます。絵付けは下手なるものゆえに、生命感にあふれ、古拙であり、雅趣深きもの。手びねりゆえに、円筒形は歪んでおり、それがまた味わいよい。高台は平底で、茶生地があらわ、中央に鉄絵具をもって角福が記されております（前蔵者が飾っていた時の安全のための白い両面テープ痕が二か所あります。薬品などで落ちるとは思いますが、万が一、土味を損なうことを恐れて、そのままにしております）。

またとない吉田屋です。鑑賞陶器としてただ眺めるに値しますが、ペンスタンドに実用するもよし、花器とするもよし、あるいは酔狂な方ならばビールコップにすることもありましょうか。大らかな作品ゆえに、どんなふうに楽しんでも良かろうと思わせるものです。

お客様の事情により、再び手元に戻って参りました。古手の吉田屋の珍品を、ぜひこの機会によろしくお願いします。