砂岩にて造像された北魏時代の菩薩坐像です。北魏の特色をよく表した舟形の火炎文の光背、飛鳥止利様式の源流たる縦長の面相、そこに浮かぶアルカイックスマイル。長い着衣が垂れて方形の基壇に掛かり、裳掛座となっている様子など、あらゆる箇所に六朝時代特有のえも言われぬ力強さが横溢した貴重な作例です。
背面には銘文が刻まれているものの、経年の摩耗で判読は困難です。背面基壇下部には博山炉を挟んで一対の獅子が吠えるように向かい合っています。この形式もまた六朝時代の造像において多々見られるものです。
北魏王朝は鮮卑族によって漢民族の多い地域が支配された国家になりますが、そのために北魏仏の多くは漢風の宝冠や衣を纏っております(そしてその様式が飛鳥時代の我が国に伝搬されたことはよく知られるところです)。いわば東アジアの仏教美術史の根源に位置するものとして、六朝時代の仏教美術はきわめて貴重であり、今後も大切に保存し、後世に伝えていくべきものと言っても過言ではありません。この石造は光背の左上部から右下部にかけて割れているものを、じつに巧妙に補修しておりますが、ほとんど分かりづらい美術補修であり、鑑賞上さほど苦になりません(美術館に所蔵されている六朝や唐の石仏も多々、補修が成されておりますので、あまり気にするべきではないと個人的には考えております)。
東京を、いや日本を代表する名店である甍堂が1991年7月号の美術雑誌「小さな蕾」に広告掲載した現品となります。ご売約ありがとうございました。