萩焼初期の本当の「古萩」と呼び得る数少ない茶碗です。初期古萩は井戸などの高麗茶碗を範とし、開窯黎明期ならではの大らかな気風を感じさせ、見る者を魅了します。この作品もまた高麗茶碗の一種、粉引茶碗を写したものですが、三つに分けた割高台、高台脇から口縁めがけて僅かに浅く付けられたヘラ目、一か所押して歪ませた口縁など、高麗にはあまり見られない古萩ならではの要素も備えており、唯一無二の魅力を放っております。
箱の貼紙に「古萩大茶碗」とあるようにサイズも堂々としており(さりとて大きすぎることもなく良い塩梅)、見込みもたっぷりと深く、17世紀に上り得る、まさに古萩ならではの風格を纏います。土味は灰褐色で、かちっと焼きしまっており、古萩の代名詞的な大道土のざんぐりした味わいとは違いますが、良質の地土を轆轤引きしており、粉引の肌ともあいまって、お茶がとても美味しく飲める茶碗です。古来より「一楽二萩三唐津」と言われるように、古萩で飲む茶碗は不思議と美味しいものです。また伝世品なれどまだあまり使い込まれた風ではなく、俗に「萩の七化け」というように今後使い込むことによる景色の変化も楽しみです。
茶碗の装いもよく、詳細はブログページに追記いたしますが、良い裂を用いた仕覆、中込み、柱、そしてこの茶碗に関するエピソード(旧蔵者が浦上敏郎氏を伴い山口県立美術館の学芸課長に鑑定を乞うた旨)が記されたメモ紙も付属し、所有欲を満たしてくれる要素になっております。なお蓋裏には「愛陶家であり権威者であった小野賢一郎氏の蔵品を和田三造画伯の世話により譲り受けた品なり」と記されております。愛着が偲ばれます。
ご売約ありがとうございました。