呉須冠手半筒茶碗です。世に見る呉須や古染付の茶碗は、ほぼ火入の見立てであり、この茶碗も例に漏れず火入として生まれた器ですが(正確に呼ぶならば呉須染付冠文火入となりましょう)、見込みがすべて施釉されており喜ばしく、またサイズ感も茶碗として良い塩梅です。まるで初期伊万里のように、おおらかな筆致によって冠が染付で描かれ、冠が横倒しになっている様子なども何となく愛らしい感じがします。安南絞手のように呉須が滲んでしまっているのも、趣があって楽しい。残念ながら見込みに火箸で掻いたような線傷が見られるのですが、茶を立てると目に付きませんし、そのぶん値段にも反映しておりますので、この大らかな味わいの唐物茶碗を、その大らかさゆえに愛好してくださる方にとっては、かえって嬉しい品物ではなかろうかと考えております。
東京国立博物館に同手が所蔵されており、広田不狐斎旧蔵ということになります。東博の作品はさすがに染付の出来が良いのですが、当品は呉須の滲んでしまった様子が、かえっておもしろいのではないでしょうか。侘びた茶味ある唐物茶碗として、おすすめしたい所存です。
御売約ありがとうございました。